映画:海賊とよばれた男
上下巻ある超大作をどう映画にするのか、ワクワクしながら観に行ったが・・・ちょっと残念だった。
残念ポイント① 国岡の男気溢れる部分が上手く描ききれていない。
海の上でオイルを売ることを思いついたとき、国岡のオイルが優れていることを証明した満州での出来事、戦後に誰も首にしないと宣言しどんな仕事でもやりきった姿、誰にも屈することなく自分の信念を貫いた姿・・・どれも上手く描けていない気がした。なんてったって時間が足りないからか、どの出来事もサラリと描かれている。だから、国岡が考えたことや決断したことの重みがいまいち伝わってこない。そのうえ、社員は国岡の信奉者として描かれているため、社員たちが「店主の言うことなら、どんなことでも俺らはやります!」的なセリフも多い。だから、国岡の姿や発言によって国岡の凄さを感じるというより、「あの人は凄い人ですよ!」という作中の言葉によって、国岡の凄さを信じ込まされている気分になるのだ。小説を読んだときはそんなことを感じなかったんだけどな・・・。国岡の凄さを心で感じたかったよ。
残念ポイント② 離婚したユキの気持ちに死ぬ間際まで気づかない設定になっていたこと。
小説では、子どもができないことに責任を感じたユキが国岡の将来を案じて身を引いたことをたしか国岡は知っていた。お互い愛し合っていてユキの気持ちも分かったうえで、別々の道を歩む。どんなことがあっても前に前に進む国岡は、きっとユキの気持ちに応えなければならないという想いを胸に抱いていたんじゃないかと、思いをはせて切ない気持ちにもなった。ところが映画では、自分が死ぬ間際にユキの気持ちに気づく・・・国岡、残念な人になってるじゃん。 んー、映画より小説の方が良かったなぁ。
唯一、映画で良かったのは、岡田くんの演技。60代がメインの役をあんな風に演じることができるのは、本当に凄い!
映画:マダムフローレンス
世界一オンチな音楽家、フローレンスがカーネギーホールを満席にする・・・実話に基づいた話。
映画全体では予想出来ない驚きの展開は無いし、すごく爆笑したり、号泣したりも無い。静かにひとりしんみり観るのがオススメ。正直、DVDでも良いかな。みどころはフローレンスを演じるメリルストリープの歌のオンチさ加減と、シンクレアを演じるヒューグラントのカッコよさ。とにかくフローレンスを健気に守るヒューグラントはカッコ良い!フローレンスは死ぬ間際、自分がオンチなことに気づくんだけど、「カーネギーホールで歌った事実は消せない」って微笑む。病気で子どもをつくることはできず、シンクレアと結婚していても愛し合うこともできなかったフローレンスだけど、大好きな音楽とシンクレアの確かな愛に包まれて幸せだったんだろうな。
小説:海賊とよばれた男(百田尚樹)
出光興産の創業者をモデルに、主人公の国岡の一生と大企業に成長するまでの軌跡を描く物語。
なんといっても、主人公の国岡がカッコよすぎる。戦後の苦しいなか、社員をひとりもクビにすることなく養う。誰もやりたがらない仕事をやって、新たな仕事を勝ちとる。これまでに無いやり方で石油を売って活路を見出す。強い相手であっても信念を持って挑む。これほどまでに、熱く芯が通った主人公がいただろうか。
上下巻の大作を、映画でどう描くのか楽しみ。
小説:海と月の迷路(大沢在昌)
軍艦島が炭鉱の島として栄えていた戦後。
島に赴任したばかりの若い警察官が、遺体で見つかった少女の事故死を疑い、独自に捜査を進めていく。
密室ともいえる島でおきた少女の死には、8年前に亡くなった別の少女の死とつながる共通点があり・・・。
主人公が定年を迎え、送別会が開かれた夜。
本人の口から語られる若かりし頃に関わった事件の話。
ざっくり言うと警察小説。
だけど、その一言では表せないくらい、人の感情や狭い島で暮らす人たちの人間関係、人の醜い部分や弱さが丁寧に描かれている。
最終的に、主人公の警察官によって犯人は暴かれるのだけど、犯人が分かったすっきり感より、いたたまれなさが残る。
主人公の警察官の後悔と、島に暮らす人々が悪意もなくつくった島の空気がそうさせたのだと思う。
この小説に出てくる人たちは何も特別な人ではない。
私だって、この島にいたら同じことを・・・、
そんな気持ちになる、考えさせられる話。
丁寧に描かれているぶん、若干長さを感じたが。